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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)9号 判決 1978年10月17日

控訴人 千葉東税務署長

代理人 福岡右武 ほか五名

被控訴人 木村良吉

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は 第一・二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(被控訴人の主張)

(一)  所得税法(現行の昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの。以下「旧所得税法」という。)第六三条(現行の昭和四〇年法律第三三号所得税法(以下「現行所得税法」という。)第二三四条。以下同じ。)は、憲法に違反し無効である。

1  憲法第一三条は、すべての国民が個人として尊重され、その生命、自由及び幸福追求に対する権利については国政上最大の尊重を要すると定めて国民の基本的権利を保障しているところ、旧所得税法第六三条に基づく質問検査権(以下「質問検査権」という。)の行使は強制力を伴う調査ではなく。相手方である納税者らの任意の同意ないし協力を前提とするいわゆる任意調査であるにもかかわらず、この調査に際し、質問に答弁しなかつたり又は検査を拒む等の行為をした者には同法第七〇条(現行所得税法第二四二条。以下同じ。)所定の刑罰を科すことにより、その実効性が裏打ちされており、そのために質問検査権の行使の相手方とされる納税者らは、通常、その営業活動を一時停止させられたり、私生活の平穏を害される不利益を被ることになる。それにもかかわらず、同条には、質問検査権行使の対象となるべき納税者の選定、選別及び同検査権行使の方法などについても、なんらの明確な基準がないため、税務職員が恣意的にこれを発動し、その結果私生活の自由、平穏を追求する国民の基本的権利が侵害される余地がある。

したがつて、旧所得税法第六三条の規定は憲法第一三条に違反する。

2  憲法第三五条は国民の住居不可侵、捜索、押収を受けることのない権利を基本的人権として保障し、国家権力は裁判官の発する許可令状がない限り、国民の住居に立入り、その所持する書類等を捜索、押収することができない旨定め、国家権力の濫用を規制し、国民の人権擁護を制度上保障しているが、同規定は、国家権力と国民の権利とが相対する場合である質問検査権の行使に際しても、国民の人権保障の観点から準用されるべきである。しかるに、税務職員は、質問検査権の行使にあたり、納税者の住居に立入り又はその所有物件を自己の支配下において検査をする権限を有しているから、刑事手続上の捜索、押収以上に国民の権利を侵害する可能性が大きいので、この場合には、なんらの司法的抑制又は人権擁護のための明確な制度的保障又は制約も全く存在しない。

また、憲法第三八条は不利益供述強制の禁止を定めているが、これは国家権力が国民に強制し、その不利益な事実及び証拠について探知、収集することを許さない趣旨であると解すべきであるところ、税務職員の質問検査権は本来更正などを目的とし、当該納税者の申告を否認する方向で行使されるから、税務職員の質問に対する納税者の答弁は一般に自己に不利益な内容とならざるをえないし、また、かかる不利益な答弁が罰則の裏打ちによつて強要されている。

したがつて、旧所得税法第六三条の規定は、憲法第三五条又は第三八条に違反しており、仮に右憲法の規定がいわゆる刑事手続にのみ適用されるものであるとしても、その規定の趣旨に違反し、無効である。

3  憲法第三〇条、第八四条はいわゆる租税法律主義の原則を明らかにし、国民がいかなる場合に国の租税権力の行使を受けるかを十分予測できる程度に明らかにされていなければならないにもかかわらず、税務職員の質問検査権については、前記のとおり、その権限行使についての明瞭な基準が存在しない。

したがつて、旧所得税法第六三条の規定は右憲法の規定の趣旨に違反し、無効である。

4  憲法第三一条はいわゆる罪刑法定主義を明らかにしているところ、納税者らが税務職員の質問検査権の行使に応じない場合には刑罰を科せられることになつているから、旧所得税法第六三条はそれ自体犯罪構成要件としての性格を有するわけであるが、同条所定の「納税義務者」又は「納税義務があると認められる者」の概念が不明確であり、また、「必要があるとき」の客観的な基準が全く示されていないためその意味内容が不明確である。

したがつて、旧所得税法第六三条の規定は、右憲法の規定に違反し、無効である。

(二)  本件質問検査権の行使は旧所得税法第六三条の規定に違反している。

1  右第六三条所定の「納税義務者」については、これを同条中の「納税義務があると認められる者」と区別するためには、「暦年終了の際に成立する抽象的納税義務の内容を申告した者」と解すべきであるところ、右申告をした納税義務者は、申告によつて確定した税額を納付する義務を負うだけであるから、右申告した税額を納付した場合には、その確定した限りにおいて納税義務は消滅し、質問検査権の対象となるべき納税義務者に該当しないことになり、また、右税額を納付しない場合にも、国税徴収法第一四一条所定の質問検査権の行使が問題となりうるだけであつて、所得税法による課税標準又は税額確定のための質問検査権行使の対象とはなりえない。

したがつて、「納税義務者」に関する旧所得税法第六三条の規定は積極的な存在意義を有しない。

また、前記「納税義務があると認められる者」とは、申告納税制度下では抽象的納税義務が成立していると認められる者ではあるが、いまだその者につき課税標準及び税額が確定していない場合であるから、「所得があるのにこれを申告しないか又は申告はしたがそれ以外にも所得があるため、決定又は更正によつて新たに税額を確定する必要がある者」がこれに該当するものというべきである。したがつて、かかる「納税義務があると認められる者」だけが質問検査権の対象となりうるのである。申告納税制度下では、納付すべき税額は納税者の自由申告によつて確定するのが原則であり、税務署長による更正(又は決定)は第二次的、補完的な地位しか与えられていないし、また、質問検査権の行使は納税者の営業や生活に影響を及ぼし、これに応じないときは処罰の対象ともなりうるから、旧所得税法第六三条の「所得税に関する調査について必要があるとき」とは「申告がないか又は申告があつてもそれが適正でないことについての客観的合理的な疑いのある場合であり、しかも、間接強制を伴う質問検査権を行使しなければ当該納税者の調査が全うできない程度の高度の必要性があるとき」と解すべきである。しかるに、本件質問検査権の行使にあたりかかる合理的必要性を充たすに足りる事由は全く存在しない。

2  質問検査権の範囲は「事業に関する帳簿書類その他の物件」に限られ、更に、その内容もまた、前記合理的な疑いを解明するために必要最少限の事項に限られており、納税者らも合理的な理由があれば質問検査を拒否することができるから、税務職員は納税者らに対しその合理的必要性を告げる義務があり、納税者らもこれを問いただす権利があるところ、本件においては、税務職員は、被控訴人らがその合理的必要性を告げるよう要求したにもかかわらず、これを告げず、単に「帳簿書類をみせて下さい。」というような包括的な質問あるいは帳簿書類等の要求をしたにすぎないから、被控訴人はこれに応ずる義務がない。

3  本件税務調査においては、納税者に対する質問検査と反面調査とが並行して実施されたのであるが、申告納税制度下での納税調査は、納税者に対する調査を第一次的に実施し、それで完結することを原則とすべきであり、反面調査は、納税者に対する調査が十分尽くされたが、課税標準、税額等を把握することのできないことが明らかであり、更に、反面調査をする必要がある場合にのみ許されるべきである。

しかるに、本件反面調査では右要件が充足されていない。

(控訴人の主張)

(一)  被控訴人の憲法違反の主張について

1  憲法第一三条は個人の権利の包括的な宣言の規定であり、その意味で抽象的な内容の規定であるから、法令その他の国家行為が直接同条に違反して無効となるものではない。また、質問検査権の行使にあたつて要求されるのは、同検査権に当然附随する些少の時間の浪費と手数だけであり、同検査権行使の結果としては、納税義務者が法律の定めるところに基づいて当然負担すべき納税義務の履行を求められるにすぎないから、質問検査権の規定は右憲法の規定が定める国民の権利を侵害するものではない。

2  質問検査拒否に対する罰則は税務職員による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴うが、右検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のため必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、また右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもなく、更に、強制の態様、度合も間接的、心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであつて、実質上、直接的、物理的な強制と同視すべき程度まで達していない。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために税務職員による実効性のある検査制度が不可欠であり、その目的、必要性からみて、右の程度の強制も実効性確保の手段として不均衡、不合理なものとはいえないから、税務職員による質問検査についてあらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、憲法第三五条の法意に反するものとはいえない。

3  税務職員による質問も、もつぱら所得税の公平確実な賦課徴収を目的とする手続であつて、刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、また、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもなく、更に、かかる質問制度に公益上の必要性と合理性の存することは前記のとおりであるから、右質問についての規定そのものが憲法第三八条第一項にいう「自己に不利益な供述」を強要するものということはできない。

4  旧所得税法第六三条の規定はその内容についてはもちろん、罰則の構成要件としても明確であるから、憲法第三〇条、第八四条及び第三一条には違反しない。

(二)  被控訴人の本件質問検査権の行使が所得税法第六三条の規定に違反しているとの主張について

1  旧所得税法第六三条の「納税義務者」とは同法第一条(現行所得税法第五条。以下同じ。)の「所得税を納める義務がある」者の概念を前提として解すべきであるところ、同法上の課税標準たる所得はその基礎となるべき収入が時々刻々発生するものであり、現に右所得の源泉となる事業等を有する場合には、将来課税要件を充足し、国との間に所得税法上の債権債務たる法律関係が生ずる蓋然性は極めて高く、かくの如き者も当然に旧所得税法第一条の「所得税を納める義務がある」者の範ちゆうに含まれるのであるから、同法第六三条所定の「納税義務者」とは、法定の課税要件を充足して具体的納税義務を負担している者のほか、所得発生の源泉となる事業等を有し、当該課税年度が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、将来課税要件を充足し、終局的に納税義務を負担するにいたるべき者をも含む、と解すべきであり、また「納税義務があると認められる者」とは税務職員の判断によつて右の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者と解すべきである。

そうすると、被控訴人に対する本件税務調査は、昭和三八年分及び同三九年分の両年度分とも、確定申告書提出後に、いわゆる事後調査として行われたものであり、被控訴人は右「納税義務者」に該当する。

2  税務職員が質問検査権を行使する場合の調査の範囲、程度などの実施の細目は、質問検査の必要があり、かつ、社会通念上相当性の範囲内で税務職員の合理的な裁量に委ねられ、また、調査の理由及び必要性の告知もその裁量に委ねられているところ、本件質問検査権の行使は社会通念上相当な範囲内で、かつ、相当な方法で行われたものである。なお、質問検査権の行使が社会通念上相当と認められる限度を超え、濫用にわたつた場合において、質問検査権の行使による調査のみに基づいて課税処分がされ、他になんらの調査もされていないというような事情が存するときは、調査をしないで課税処分をしたことになり、その結果、同処分が取り消されることも考えられるが、質問検査権の行使が濫用にわたらないかぎり、その行使にあたつての単なる裁量上のかしは課税処分になんらの影響を及ぼすものではない、と解すべきである。

また、本件の反面調査についても、被控訴人が本件質問検査権の行使に協力しなかつたため、担当税務職員が被控訴人の取引先である金融機関等を反面調査し、課税資料を収集したのである。

(三)  昭和三八年及び同三九年分の本件各課税処分の根拠について補足的に次のとおり主張する。

控訴人が原審以来主張している右両年度分の被控訴人の煙草以外の収入金額に係る仕入先及び金額のうち、<証拠略>中で否認されている仕入先全部及び住所等不明仕入先分を除外し、かつ、右煙草の収入金額につき被控訴人に有利な推計方法に変更し、被控訴人の右両年分の各所得金額を計算すると、次表のとおり、昭和三八年分の所得金額は八四一、四三八円、同三九年分の同金額は九三七、七二五円となり、控訴人のした本件各課税処分に係る所得金額を上回つている。

番号

年分

摘要

昭和三八年分

昭和三九年分

<1>

収入金額

煙草

二、五七六、八六七円

三、二二七、五二八円

その他

五、八四五、九七六円

五、五五三、六九一円

<2>

仕入金額

(仕入原価)

煙草

二、三七〇、七一八円

二、九六九、三二六円

その他

四、三二〇、一七七円

四、一〇三、六二三円

<3>

売上差益(<1>―<2>)

一、七三一、九四八円

一、七〇八、二七〇円

<4>

必要経費

一般経費

五二三、二一四円

四六五、三九九円

特別経費

二九三、五四六円

一三二、五四六円

<5>

事業専従者控除額

七三、七五〇円

一七二、六〇〇円

<6>

差引事業所得

(<3>―<4>―<5>)

八四一、四三八円

九三七、七二五円

右摘要欄記載の各金額の算出根拠は以下のとおりである。

1  煙草以外の収入金額は昭和三八年五、八四五、九七六円、同三九年分五、五五三、六九一円であり、また、同仕入金額は同三八年分四、三二〇、一七七円、同三九年分四、一〇三、六二三円であり、これを課税年度分別及び仕入先別に分類すると、別表一のとおりである。

2  煙草の収入金額及び一般経費について

煙草の収入金額は昭和三八年分二、五七六、八六七円、同三九年分三、二二七、五二八円であり、また、同仕入金額は同三八年分二、三七〇、七一八円、同三九年分二、九六九、三二六円であるが、右収入金額は、右仕入金額にたばこ専売法施行規則第一八条一項の規定に基づき同公社の公示により定められた割引歩合(別表二)のうち八%を選択、適用して推計、算出した金額であり、この計算を表示すると、次表のとおりとなる。

番号

区分

摘要

昭和三八年分

昭和三九年分

<1>

仕入金額

二、三七〇、七一八円

二、九六九、三二六円

<2>

差益率(割引歩合)

八・〇〇%

八・〇〇%

<3>

収入金額〔<1>÷(一-<2>)〕

二、五七六、八六七円

三、二二七、五二八円

なお、前記所得金額の計算表の「<4>必要経費」欄中の「一般経費」には、その他(肉小売)部門の一般経費が計上されているが、煙草小売に係る一般経費は計上されていない。その理由は、被控訴人の営業形態が肉小売業のかたわら煙草小売を営んでいるため、煙草小売のためだけの一般経費が特段発生するとは認められないこと及び被控訴人ら煙草小売業者が煙草小売のため使用している包装紙、化粧箱等は日本専売公社(被控訴人の場合は千葉支局)から無償で支給されており、また、煙草は同公社(同支局)管理下の配送車により被控訴人らの店頭まで無償で配送されていたためである。

(当審における新たな証拠)<略>

理由

一  被控訴人は、千葉市内で食肉、タバコ等の小売商を営むいわゆる白色の納税義務者であり、昭和三九年三月一六日同三八年度分の所得金額を五四一、〇〇五円、税額を一六、二〇〇円、同四〇年三月一五日同三九年度分の所得金額を四三一、六五〇円、税額を二二、二〇〇円とする白色の各確定申告をしたこと、控訴人は同四一年一月二〇日同三八年度分の所得金額を八三一、一〇〇円、税額を六〇、六〇〇円、同三九年度分の所得金額を七四五、一四九円、税額を七一、四〇〇円とする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をし、その旨被控訴人に通知したこと、被控訴人は同四一年二月一四日控訴人に対し各異議申立をしたが、控訴人は同年五月一六日これをいずれも棄却する旨の決定をし、その旨被控訴人に通知したこと、被控訴人は同年六月一四日東京国税局長に対し右各棄却決定を不服として審査請求をしたが、同四二年六月一二日いずれも棄却され、その旨の通知を受けたこと、本件各更正処分がいわゆる推計によつてされたものであることについては当事者間に争いがない。

二  被控訴人は、本件各更正処分の通知書には理由が附記されていないから、同処分は違法である旨主張するので、この点について判断する。

本件各更正処分の通知書に更正した理由が附記されていないことは当事者間に争いがないが、被控訴人は、前記のとおり、いわゆる白色の納税義務者であるところ、青色申告に対する更正の場合には、決定の帳簿書類に基づく実額調査を保障するため、旧所得税法第四五条第二項(現行所得税法第一五五条第二項)において更正通知書にその「更正の理由を附記しなければならない。」旨定めているが、被控訴人の場合のように、いわゆる白色申告に対する更正処分の通知書については、かかる定めがなく、旧所得税法第四四条第二項(現行所得税法第一五四条第二項)の規定により、総所得金額又は純損失金額等につき所得別の内訳を附記すれば足りるのであるから、本件各更正処分の通知書に更正した理由が附記されていないからといつて、同処分が違法であるということはできず、被控訴人の主張は採用することができない。

三  被控訴人は課税処分の取消訴訟の訴訟物は客観的な課税標準又は税額等の数額ではなく、課税処分が適法な手続に従つてされたかどうかということであり、これを本件各更正処分についていえば、推計による課税標準等が更正処分当時の資料によつて認定されうるか否かということであるところ、本件各更正処分の課税標準等は処分当時の資料によつて認定されえないから、本件各更正処分は違法である旨主張するので、この点について判断する。

課税処分の取消訴訟の訴訟物は課税処分によつて認定された課税標準又は税額が客観的に正当とされる数額を超えているか否かということであるから、本件各更正処分によつて認定された課税標準又は税額がその後に収集された資料により客観的に正当とされる数額を超えていない以上、同処分は適法であり、また、同処分が正当であることは後記のとおりであるから、被控訴人の右主張は採用することができない。

四  被控訴人は、旧所得税法第六三条の規定は憲法に違反し、したがつて同条に基づいてされた本件質問検査権の行使は違法である旨主張するので、この点について判断する。

(一)  憲法第一三条、第三〇条、第三一条及び第八四条に違反する旨の主張について。

本件質問検査権の行使は、後記のとおり、現行所得税法の施行日である昭和四〇年四月一日の前後にまたがつているが、昭和三八年及び同三九年分の所得税に関するものであるため、現行所得税法附則第二条の規定に基づき同日以後の質問検査権の行使についても、旧所得税法第六三条の規定が適用されることになる。そして、所得税に係る更正の場合につき、その認定判断に必要な範囲内で、職権による調査が行なわれることは法が当然に許容しているものというべきであり、旧所得税法第六三条の規定は、税務職員において、調査の目的、調査すべき事項、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、被調査者の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条各号に掲げる者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行なう権限を認めた趣旨であつて、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと被調査者の私的利益との衡量において社会通念上相当である限度にとどまるかぎり、税務職員の合理的な選択に委ねられており、また、同条一号にいう「納税義務者」とは、既に法定の課税要件が充たされて客観的に所得税の納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者のほか、当該課税年が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、これによつて将来終局的に納税義務を負担するにいたるべき者をもいい、「納税義務があると認められる者」とは、税務職員の判断によつて、右の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいうものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定刑集二七巻七号一二〇五頁以下参照)。

したがつて、旧所得税法第六三条の規定が不明確であるとか、あるいは、質問検査権行使についての基準が不明確なために、その行使が税務職員の恣意に委ねられていることを前提とする被控訴人の前記違法違反についての主張は採用することができない。

(二)  憲法第三五条及び第三八条に違反する旨の主張について

旧所得税法第六三条に規定する検査があらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法第三五条の法意に反するものとすることはできないし、また、同条の規定自体が憲法第三八条第一項にいう「自己に不利益な供述」を強要するものに当らないことについては最高裁判所昭和四七年一一月二二日大法廷判決(刑集二六巻九号五五四頁以下参照)の示すとおりであるから、被控訴人の前記憲法違反についての主張は採用することができない。

五  被控訴人は、旧所得税法は申告納税制度を採用しているから、旧所得税法第六三条に基づく質問検査権の行使は、「納税義務があると認められる者」すなわち、所得があるのにこれを申告しないか又は申告をしたがそれ以外にも所得があるため更正によつて新たに税額を確定する必要がある者につき、その申告が適正でないことについての客観的合理的な疑いのある場合であつて、間接強制を伴う質問検査権を行使しなければ当該納税者の調査が全うできない程度の合理的必要性があるときに限り、許され、その行使に際し、税務職員は、その合理的必要性を告げる義務があるのに、本件の場合には、被控訴人らの要求があつたにもかかわらず、これが告げられなかつたばかりでなく、税務職員は、被控訴人の承諾をえないで、店舗内のひき出しを開けて小切手帳を取り出し、これを写しとつたとか、同条三号所定のいわゆる反面調査は、納税者に対する調査が十分尽くされたが課税標準又は税額等を把握できない場合に限り、納税者の承諾を得てこれを実施することが許されるにすぎないにもかかわらず、本件の場合には、被控訴人の承諾もなく、そのうえ被控訴人に対する調査と反面調査とが並行して実施されたとか、同条の検査は「事業に関する帳簿書類その他の物件」についてのみ許されるにすぎないのに、千葉民商から被控訴人に対する総会招集通知に関する葉書を被控訴人の承諾なく写しとるなど千葉民商を破壊し又はその会員の団結権を侵害する目的で質問検査権が行使されたのであるから、本件質問検査権の行使は旧所得税法第六三条の規定に違反し、その違法な調査により収集された資料に基づいてされた本件更正処分は違法である旨主張するので、これらの点について判断する。

(一)  旧所得税法第六三条の規定の趣旨、同条一号所定の「納税義務者、納税義務があると認められる者」の概念及び質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の心要があり、かつ、これと被調査者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、税務職員の合理的な選択に委ねられていることは前記のとおりである。更に同条に基づく質問検査を実施するための日時場所を事前に通知したり、調査の理由及び必要性を個別的、具体的に告知することは、質問検査をするための法律上の一律の要件ではないと解するのが相当である(前記最高裁判所昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定参照)から、被控訴人の前記主張中右と異なる部分は採用することができない。

(二)  更に、課税処分の取消訴訟の訴訟物は、前記のとおり、課税処分で認定された課税標準又は税額が客観的に正当とされる数額を超えているか否かということであるから、仮に、本件質問検査権の行使に際し、税務職員が社会通念上相当である限度を超えてこれを行なつたとしても、そのことから直ちに本件更正処分が違法であるということにはならないものと解すべきであるが、違法な質問検査のみに基づいて本件更正処分がされた場合には調査をしないで同処分をしたという問題が生ずる余地もありうるので、本件質問検査権の行使に際し被控訴人が主張するような違法な事実があつたか否かについて検討を加える。

<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(1)  昭和三八年一〇月以前は被控訴人の妻が主に店舗の経営に携わり、取引に関する帳簿書類なども作成していたこと、同女が同月死亡してからは、被控訴人の長男である木村国造(以下「国造」という。)が主となつてその経営に関与するようになつたが、同人はもちろん、被控訴人もまた経理面に疎く、帳簿書類などの作成にも慣れていなかつたこと。

(2)  被控訴人は、昭和三八年暮千葉民商に入会し、同三九年三月同三八年度分の確定申告書を提出するにあたり、国造が千葉民商と相談のうえ作成した被控訴人名義の確定申告書(<証拠略>)を控訴人に提出したこと、同申告書の表面の所得金額の内訳欄には専従者控除額及び所得金額が記載されているのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、そのうえ収支計算書の添付もなく、かつ、その裏面の障害者控除欄には被控訴人の妻の名が記載されているので、控訴人は、被控訴人の申告所得金額が旧所得税法の規定に基づいて正しく算出されたものであるかどうか、また、被控訴人の妻が前年度まで障害者控除の対象となつていなかつたので、これに該当するのかどうか、更に、被控訴人は同三八年一一月に家屋を増築していたので、その資金源関係を検討するために、被控訴人の同三八年度分の所得税について調査する必要があつたこと、千葉税務署所得税課の中塚五郎事務官は、同三九年夏ころから三週間位の間に、前後三回にわたり調査のため被控訴人宅に赴いたこと、第一回目は午後一時三〇分ころ訪れたところ、被控訴人は外出し不在であつたが、国造の外に千葉民商事務局長今関正夫(以下「今関」という。)らも待機しており、中塚事務官は、今関の自己紹介により、被控訴人が千葉民商の会員であることを知つたこと、同事務官は国造に対し昭和三八年度分の所得税の調査に来た旨告げたところ、同人は「店のことは被控訴人がやつているので分らない。」と述べ、今関は「同年度分の原始記録はない。」と述べて便箋にタバコと食肉の仕入れを記載した月別集計表を提示し、国造は「その基礎となる帳簿は被控訴人でないと分らない。」と述べたこと、午後二時ころ被控訴人が帰宅したので、同事務官は前記のとおり来意を告げ、タバコと食肉の仕入れについての原始記録の提示方を要請したところ、被控訴人は、前記集計表のうち、食肉については斎藤大二郎からきいて書いたものである旨答えたうえ、同三九年分のタバコの買受帳、同三八年一一月三〇日以降の千葉信用金庫の小切手帳の控及び食肉、揚げ物、コーヒー、雑貨の売り上げが記載されたノート(ただし、七、八月分の記載がない。)を提示したので、同事務官はこれを書き写したこと、被控訴人は前記増築費用については全く答えがなかつたが、千葉信用金庫に行つて調査することを勧めたので、同事務官は午後三時三〇分ころ被控訴人宅を辞去し、その帰途同信用金庫に立寄り、被控訴人の入出金の状況について調査したこと、第二回目は、国造しかいなかつたので、同事務官は同人に対し同三八年分のタバコの買掛帳の提示方を要請したが、被控訴人が留守であることを口実に拒否されたこと、第三回目は同事務官は被控訴人に対し右タバコの買掛帳の提示方を要請したところ、「専売公社に行けば分る。」とか、「取引関係の原始記録はない。」といわれたこと、そこで同事務官は、その後同三九年一二月までの間に、被控訴人の仕入先である専売公社など三軒程について反面調査をしたのであるが、同事務官が急病で入院したため、被控訴人の昭和三八年度分の所得税に関する調査が中断されるに至つたこと、同事務官の右三回にわたる調査において被控訴人、国造及び今関らがその理由を尋ねたことはなかつたこと。

(3)  被控訴人は、昭和四〇年三月、同三九年度分の確定申告書を提出するにあたり、同三八年度分の場合と同じように、国造が千葉民商と相談のうえ作成した被控訴人名義の確定申告書(<証拠略>)を控訴人に提出したこと、同申告書の表面の所得金額の内訳欄には、前年度の場合と同じように、収入金額や必要経費の記載がなく、自動車の譲渡損失が一一〇、五〇〇円と記載され、これが所得金額から控除されていたが、収支計算書等の添付もなかつたので、控訴人は、右申告所得金額が所得税法の規定に基づいて正しく算出されたものかどうか、また、自動車の譲渡損の事実があるのかどうかを検討するため、被控訴人の同年度分の所得税について調査する必要があつたこと、千葉税務署所得税第一課所属の石躍睦大及び宮永康夫両事務官が前記中塚事務官のした昭和三八年度分の調査を引継ぐとともに、同三九年度分についても併せて調査することになり、両事務官又はこれに松崎係長が加わり、同四〇年七月二〇日から同年一二月二〇日まで前後七回にわたり被控訴人宅に赴いたこと、第一回目(昭和四〇年七月二〇日)には松崎係長と宮永事務官が被控訴人と面接し、同三八年及び同三九年度分の調査であり、同三八年度分については中塚事務官が病気のため調査未了となつていたことを説明したところ、被控訴人は「確定申告書は千葉民商の方で書いたので障害者のことも知らないし、国造も留守のため分らない。」と述べたので、調査を延期したこと、第二回目(同月二七日)は石躍、宮永両事務官が被控訴人と面接したが、「国造が留守のため分らないし、また、帳簿らしい帳簿書類も作つていないが、書類関係は千葉民商に預けてある。」と述べたので、調査を延期したこと、第三回目(同年八月一八日)には右両事務官が国造と面接したところ、当日は今関らも立会していたが、国造は「昭和三八年度分の資料は既に処分ずみであり、同三九年度分については今日調査を受けるとは思つていなかつたので準備していないから、四日程したら帳簿書類を揃えて連絡する。」と述べたので調査を延期したこと、第四回目(同年九月四日)には右両事務官が国造と面接したが、なんらの帳簿書類も揃えてなく、再び「同年八月に揃えておく。」と述べたので、同人に対し「収支計算等の明細の照会」と題する用紙を手渡し、その記載方を要請したこと、その際、石躍事務官は同人に対し八月二〇日から取先先の反面調査をしている旨説明し、同人もまた、「豚の仕入れは斉藤大二郎以外からも一か月に一、二頭位、コロツケの材料なども現金で仕入れているが、その金額は分らない。」旨述べたこと、更に、同事務官が、店舗内の壁にピンで貼られていた千葉民商からの「第五回総会開催について」と題する案内状の葉書に「重税と金隔難、営業被壊から業者の営業と生活を守るための会議」という文言が記載されていたので、これを読んでいたところ、国造が「必要なら持つて行つてもよい。」と言うので、同事務官は「持つて行く程の書類でもないから、写させてもらう」と言つてこれを写した(<証拠略>)後、葉書を国造に手渡して帰署したこと、第五回目(同月八日)には松崎係長、石躍、宮永両事務官が国造と面接したところ、今関らが待機していて前記葉書を写したことに対し激しく抗議をし、また、前記「照会」と題する用紙も白紙のまま放置されていたので調査をすることができなかつたこと、第六回目(同年一二月一八日)には石躍、宮永両事務官が訪れたが、被控訴人も国造も留守であつたので、調査をしなかつたこと、第七回目(同月二〇日)には右両事務官が国造と面接し、「もし借入金があるとその利息などは経費になるから、教えてほしい。」といつたが、同人はこれに応じなかつたこと、右各調査の際に被控訴人、国造及び今関らが調査の理由を求めたことがなかつたこと、石躍事務官らは、被控訴人の仕入れ状況を把握するため、同四〇年八月二〇日ころからその仕入先などについて反面調査を開始し、同月二五日から二七日までの間は千葉信用金庫本店、同年九月一日国民金融公庫千葉支店、同月三日ころ専売公社千葉支局、その後その他の取引先を調査していたこと。

以上の事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は、前顕証拠に照らして、たやすく信用することができず、その他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、控訴人が被控訴人の昭和三八年及び同三九年度分の所得税について調査する必要性があつたこと、税務職員の被控訴人宅における調査は短時間のうちに行われ、被控訴人の営業にはなんらの支障も生じなかつたこと、被控訴人は両年度分の所得金額を明確にすることができるような帳簿書類を作成していなかつたし、またそれを十分説明することもできなかつたこと、たまたま石躍事務官が、国造の承諾を得て、店舗内に貼つてあつた千葉民商からの総会開催の案内状である葉書を写したところ、今関らがこれを口実に権限ある税務職員の調査に応じなかつたこと、被控訴人及び国造も今関らのいうがままになつていたものであること、税務職員は、被控訴人及び国造の態度から、被控訴人及び国造のみを調査していたのでは到底その所得金額を明確にすることができないと判断し、その取引先について反面調査を開始したものであることが推認され、右事実を覆すに足りる証拠はない。

なお、税務職員は国造の承諾を得て前記葉書を写しているのであるから、これをもつて本件質問検査権の行使が違法であると断定することはできず、その他に本件質問検査権の行使が千葉民商を破壊したり、その会員の団結権を侵害することを目的としてされたものであることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本件質問検査権の行使は、被控訴人の昭和三八年及び同三九年度分の所得税を調査するためにされたものであるところ、税務職員は右調査に際して被控訴人の営業に支障を生じない短時間に限り、被控訴人の自発的な協力を得てこれを行ない、その協力が得られなくなつた段階において取引先について反面調査をしているのであるから、本件質問検査権の行使にはなんらの違法がないものというべきであり、これが違法である旨の被控訴人の主張は理由がない。

六  控訴人のした推計課税について

(一)  被控訴人が昭和三八年及び同三九年度分の所得税に関する権限ある税務職員の調査に協力しないことはもちろん、その所得金額を明らかにするような十分な帳簿書類その他の直接的資料を有していなかつたことは前記のとおりであるから、その所得金額が推計により算出されることもやむをえないものというべきであり、控訴人が被控訴人の両年度分の所得税につき実額調査によることなく、推計課税の方法によつたことは相当である。

(二)  控訴人のした推計の方法が合理的であるか否かについて判断する。

(1)  仕入金額(仕入原価)

<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、千葉税務署所得税課職員が千葉信用金庫本店及び東京相互銀行千葉支店を調査し、被控訴人の昭和三八年度分の仕入金額のうち煙草は二、三七〇、七一八円、その他の食肉等は四、四二〇、一七七円であり、同三九年度分の仕入金額のうち煙草は二、九六九、三二六円、その他の食肉等は四、一〇三、六二三円であると判明したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  差益率等

煙草の差益率(割引歩合)については、たばこ専売法施行規則(昭和二四年五月三一日号外大蔵省令第四一号)第一八条第一項の規定に基づく同三七年四月二一日日本専売公社公示第一一号、同三八年三月二九日同公示第四号、同年六月一九日同公示第八号、同三九年三月三一日同公示第四号によれば、同三八年及び同三九年度分のたばこの差益率は別表二のとおりであるから、その差益率を八パーセントとすることは合理性があるものといわざるをえない。

また、その他の食肉等の差益率及び所得率については、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

東京国税局長は、昭和四三年二月二三日付で控訴人に対し「食肉小売業者(青色申告者)の所得調査事績の報告について」と題する通達を発し、千葉市内に事業所を有する青色申告者であり食肉(牛豚肉)の小売店を経営している者で同三八年分及び同三九年分の所得調査を実施したもののうち、「(イ)事業継続者で主として牛豚肉の小売業者(ロ)たばこを除く売上原価がおおむね二五〇万円以上一一〇〇万円以下の者で、かつ、換算従業員数が二人以上八人未満の事業規模のもの(ハ)申告是認、修正申告及び更正処分(異議申立中のものを除く。)をしたもの」の各条件に該当する全員の所得税の調査事績についての報告を求め、控訴人は同年三月一日付で右条件の該当者として六人の小売業者の所得調査事績を報告したこと、同調査事績によると、食肉等の売上差益率が昭和三八年度分が二六・一〇パーセント(六人の小売業者の売上金額の総和から同売上原価の総和を控除した数値を同売上金額で除した数値)であり、同三九年度分が二六・一一パーセント(同上)であること、更に、所得率が同三八年分は一七・一五パーセント(六人の小売業者の差益金額の総和から同一般経費の総和を控除した同所得金額の総和を同売上金額の総和で除した数値)であり、同三九年度分は一七・七三パーセント(同上)であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

被控訴人は千葉市内で食肉等の小売商を営み、その売上原価も前記のとおりであるから、右同業者の売上差益率及び所得率により被控訴人の売上金額(収入金額)等を推計することには合理性があるというべきである。

右各差益率を適用して被控訴人の昭和三八年度分及び同三九年度分の収入金額及び売上差益を算出すれば、次のとおりである。

昭和三八年度分の収入金額は煙草二、五七六、八六七円(前記仕入金額二、三七〇、七一八円を一から〇・〇八を控除した数値で除した数値)とその他の食肉等五、八四五、九七六円(前記仕入金額四、三二〇、一七七円を一から〇・二六一〇を控除した数値で除した数値)との和の八、四二二、八四三円となり、同三九年度分の収入金額は煙草三、二二七、五二八円(前記仕入金額二、九六九、三二六円を一から〇・〇八を控除した数値で除した数値)とその他の食肉等五、五五三、六九一円(前記仕入金額四、一〇三、六二三円を一から〇・二六一一を控除した数値で除した数値)との和の八、七八一、二一九円となり、更に、同三八年度分の売上差益は一、七三一、九四八円(前記収入金額から仕入金額を控除した数値)、同三九年度分の売上差益は一、七〇八、二七〇円となる。

(3)  必要経費

(イ) 一般経費については、<証拠略>並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は食肉などの小売業のかたわら煙草の小売を営んでいるが、煙草の小売のために特段の経費を要しないことが認められるから、煙草以外の食肉等の収入金額に経費率(前記差益率から所得率を控除した数値)を乗じて一般経費を推計することは合理性があるものといわざるをえない。

右の方法により被控訴人の一般経費を算出すると、昭和三八年度分は五二三、二一四円(五、八四五、九七六円に差益率二六・一〇から所得率一七・一五を控除した数値を乗じた数値)、同三九年度分は四六五、三九九円(五、五五三、六九一円に差益率二六・一一から所得率一七・七三を控除した数値を乗じた数値)となる。

(ロ) 特別経費については、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、昭和三八年度分は二九三、五四六円、同三九年度分は一三二、五四六円であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(ハ) したがつて、被控訴人の必要経費(一般経費と特別経費との和)は昭和三八年度分が八一六、七六〇円、同三九年度分が五九七、九四五円となる。

(4)  事業専従者控除額

<証拠略>によれば、昭和三八年度分は七三、七五〇円、同三九年度分は一七二、六〇〇円であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(5)  以上の次第であるから、控訴人のした推計の方法は合理的であるというべきであり、被控訴人の昭和三八年度分の所得金額は八四一、四三八円(前記売上差益から必要経費と事業専従者控除額を各控除した数値)となり、同三九年度分の所得金額は九三七、七二五円(同上)となる。

したがつて、右各金額の範囲内でされた本件各更正処分にはなんらの違法がないものというべきである。

七  結論

叙上の次第であつて、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決は失当で、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 枡田文郎 齋藤次郎 古館清吾)

別表一 <略>

別表二 日本専売公社の公示の定めによる割引歩合

適用期間

1か月の小売定価の合計額

割引歩合

昭和38年1月ないし6月

12万円以下の額

9%

12万円を超え150万円以下の額

8%

150万円を超え250万円以下の額

7%

250万円を超える額

6%

同38年7月ないし同39年9月

12万円以下の額

9.4%

12万円を超え500万円以下の額

8%

500万円を超える額

6%

同39年10月ないし12月

12万円以下の額

10%

12万円を超え500万円以下の額

8%

500万円を超える額

6%

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